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無礼院慈安宮

もはや備忘録

ジェリコさんの防衛戦線




日曜日のこと。



自室で作業をしていると、
ジェリコさんが尋常でない吠え方をする。
ん?と耳を傾けるや否や、小型犬とおぼしき悲痛な鳴き声が混じる。

なななな何事?!


まさか係留ワイヤーが何かの拍子に外れて、
ジェリコのやろうよそ様のワンコになにか……


階段を滑るように駆け降り、スリッパのまま外に飛び出すと
慌てふためいたかみさんが既にいた。

たまに見る近所の……なんだっけあれトイプードルか?……ちっちゃいワンコが出窓の下で震えながら鳴いていた。


どうやらリードを着けずに散歩していて、ジェリコのところに来たらしい。
するとジェリコがそのちっちゃいワンコに噛みついた、というわけだ。

そのちっちゃいワンコを連れていた、近所の若いダンナさんは
「すいませんすいません……バカだなぁお前はー」
なんて言っていたが、背中と足辺りに犬歯が食い込んだ穴があり、血がにじんでいた。

うちのかみさん、費用はうちが持つから病院連れていきましょう、とまで言ったが、
結局大丈夫です、すいません、なんて言って行ってしまった。


かみさんの気持ちもわからんではない。
近所だし、
俺が仕事で居なけりゃ散歩するのはかみさんだしね。
近所で変に噂が立ったりしたら散歩にも行き辛い。




しかし、だ。


ダンナさんも、バカだなぁなんてワンコを嗜めてる場合じゃない。



散歩の途中の、道端の出来事じゃない。
ジェリコがつながれたうちの庭、
完全なジェリコの支配領域、テリトリーに侵入したんだから。

それ以上近づくな!という、ジェリコの警告・威嚇吠えも俺は聞いている。
鼻の上にシワを寄せ、歯を全て剥き出しにして吠えるアレだ。

にもかかわらずそのワンコは、ジェリコの攻撃が届きうる範囲まで近づいた。

人間に例えたなら、他人が無断で家に踏み込んだようなものだ。当然俺でもつまみ出す。


他のワンコとの交流が比較的少ない、室内犬であることも理由のひとつだろう。
警告が理解できなかった可能性もある。





例え普段室内飼いでも、犬を飼った以上、犬社会のルールや決まりを、必要に応じて学ぶべきだと思う。

幸いジェリコにも友達が少なからず出来て、
散歩の度に訪れては、
自分の愛犬をジェリコとスキンシップさせてくれる、有難い飼い主さんもいる。
外飼いだから遊びに来れる、なんて言ってくれる。
もちろん、そんなワンちゃん達にはジェリコも友好的だ。





ジェリコの散歩は気が抜けない。
大分他の犬の存在にも慣れたが、相性の悪い犬種ってのが、なぜかある。
日本犬とは何故かあまり気が合わない。

他の犬だけでなく、興味の対象を見つけたなら
いつどこに向かって飛び出すかわからないから気が抜けない。

うちの場合は人様に迷惑をかけないために、って意味合いが強いけれど、
自分の家族である愛犬を、常に制御できる体制でいなければ、
かわいいワンコを守れない。

急に車道に飛び出すかもしれないじゃない。
深い用水路に足を踏み外して落ちるかもしれないじゃない。

うちのは咬んだりしないし体もちっちゃいから、ではなく
ただリードを着けるだけで無用なトラブルが防げるなら着けるべきだ。
ひいてはそれがワンコを守ることにもつながる。

リードを着けることを義務として、わざわざ法律にまで定めてある意味はそこにあると思う。



そうすれば俺も
たまにうちの敷地にしてある、明らかに小型犬のウンチもさては……
なんてことまで考えなくてすむかもしれないじゃない。


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