初めてストラトを握ったのは十代の始めだった。
何に関してもいい加減で無気力だった俺が
どういうわけかギターにだけは熱中した。
中学生も後半になる頃には
お世辞にも素行が良いとは言えなかった俺は
しかしヤンキータイプの連中ともなんとなく折り合いが合わず
かといって普通にやっている生徒とも馴染むわけもなく
なんとなく浮いてしまっていた。
学ランなのにウエスタンブーツを履いて登校するような
随分おかしな子供だった覚えがある。
そのうち学校にも行かず家でギターばかり弾いているようになった。
当時そんな言葉はなかったが今でいうひきこもりだろう。
15時間とか20時間とか夢中で弾いていた覚えがある。
そこから10年も経つ頃には
大人のジャムセッションに飛び込んでも
小僧そこそこは弾けるじゃないか、
くらいは言ってもらえるようになっていた。
しかし仕事中の事故で右手を壊す。
酷かったのは人差指と中指で、
その場所になければ元が指だとはわからないほどだった。
幸い救急搬送された病院の副院長が
当時腕が立つと評判の外科医で
7時間を超え七十数針を要する、
顕微鏡を覗いて
神経や血管を縫合するような大手術だったようだが
2本の指はほぼ原形を取り戻した。
当時は
複雑な動きを要求される左手でなくて良かった、
元通りとは言わないまでも元の水準に近づけるように
またギターを練習しようと前向きに考えていた。
指そのものは関節の可動方向が変わり
可動範囲に少し制限が生まれたが
時間が経つにつれ概ね指として日常的に使う上で
支障がない程度まで回復していった。
しかしギターとなると話は簡単ではなく
イチからの初心者どころか
当初は箸やスプーンはおろか、ピックをつまんで
持ち上げることもできないところからの
スタートとなってしまった。
左手が無事なだけに尚更その道はつらく苦しく
いつしかギターへの情熱を失ってしまった。
同時に様々なことに対して気力が持てず
当時そんな言葉はなかったが今でいうニートというやつも
その頃に経験している。
我ながらなかなか先を行っている。
そこからまた10年くらい経つ。
既に大型トラックで東北に足繁く通っていた俺は
ある時からノートPCをトラックに積むようになり
そのうちブログを始めてみる。
すぐに多くのブログ仲間ができる。
その多くはギターを愛好し演奏を楽しむ方々だ。
しばらくしてひとつの動画を知る。Jeery CのCanon rockだ。
バロックの名曲、
パッヘルベルのカノンをハードロックアレンジしたもので
とても楽しそうにプレイする姿が印象的だった。
もう一度ギターを弾く喜びを味わってみたい、
その時にそう思った。
そうして運命の出会いが訪れる。
”King of the road"である。
ギターインスト職人、音で空間に絵画を描く
音の魔術師 NAKAO☆。
俺は世代的に
ネオクラシカルヘヴィメタルムーブメントを体験している。
シュラプネル一派をはじめ数えきれないギタリストが現れ
こぞってバッハのようなコード進行でハーモニックマイナーを弾き倒し
やがてその分野は飽和し、技術を誇示し名を売るやり方は破綻し
オリジナルのイングヴェイ以外消えるか路線変更していった。
つまりはネオクラシカルなんかお腹一杯なはずの俺が
この曲に脳天をぶん殴られる。
似ているようでただの猿真似ではない。
後に彼の他の楽曲を聴いて納得したが、
ネオクラシカルというスタイルを用いて
他の全てが彼の美学、方法論によって構築されており
また極めてスムースで流れるように美しい
高い技術に裏打ちされた独自のプレイスタイルと相まって
どこにも破綻の見られない完璧な楽曲だった。
驚いた。この日本にこんなやつがいたのかと。
同時に、もう一度真剣にギターに打ち込みたいと
心底強く思った。
そして事実、俺が”道王”と呼ぶこの楽曲との出会いが
俺の「2度目のギター人生」のスタートとなった。
衝撃的な出会いからもう10年が経った。
どれだけ上達できたのかわからないが
少なくとも右手にハンディらしきものは感じない。
ずっと、やりたいと思っていた。
いつかはこの曲をと考えていた。
「その時が来た」のかはわからない。
10年前と同じように、今だって弾けるようになったわけではない。
当時より飛躍的に何か能力が上がったわけでもない。
しかし、
他でもないNAKAO☆氏の言葉を借りるならば
「いつかやりたい」では
今を残せない
こうして聴くと
流れるような美しいフレーズも
タイトに締まったカッコ良さも
原曲の持ち味を自ら壊してしまっている気がしなくもないが、
仕方ない。俺はこういうやり方しか出来ないんだから。
この曲との出会いが無ければ
この「Brainflow版道王」はもとより、海王だって生まれていないし
それどころか
おそらく俺は今ギターなんか弾いていない。
「今」を残そう。
更に10年後の俺のために。
1. 無題
麻呂さんの音源を聴いていたらふとそんな考えが脳裏をよぎりました。
原曲を変に崩すことなく自分のやりたい事をきっちりと入れてくるアレンジに自分は「おぉ!」とか「うはーっ!!」とかアホみたいに驚くことしか出来ませんでしたよ(笑)
良いものをありがとうございました!